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ポケピが大好きなアナタにお届け! 不思議な魅力がいっぱいのアドベンチャーゲーム『トロと流れ星』のシナリオを手がけた岩片氏と北川氏にお話をうかがってきました。独特の雰囲気を持つお話の裏側にはこんな誕生秘話も…?
  ※このインタビューは、電撃プレイステーションVol.271で掲載されたインタビューの、オンライン版です。雑誌掲載時では載せきれなかったお話を全文お届けします。

●ポケピと町の人々が生まれた背景
──岩片さんはこれまでに『どこいつ』シリーズをプレイされたことは?
岩片烈氏(以下、岩片):1作目と2作目をプレイしました。わざわざ発売日に買うくらい好きで、北川君の分も買ってあげたんです。最初『どこいつ』で遊んだ時は、猫が好きなこともあってトロを選んで、その後にスズキ、ジュン、ピエールの順にプレイしていきました。トロが思ったよりも情けないので、わざと「でこピン」を選択するとか、意地悪プレイをしてました(笑)。その時、波長が合ったのはジュンだったんです。「こいつが一番おもしろい」って思いましたね。だから、もともとプレイしていたこともあって、シナリオ依頼が来たときも、抵抗なく取りかかることができました。
──今回ポケピが増えていますが、理由は?
北川竜大氏(以下、北川):ヒューマンドラマを描くには、たくさんのキャラクターが必要だったんです。そこで、人間も出したいんだけどポケピもたくさん出そうよということになりました。一番初期の段階では、100以上のポケピがアイディアとして出されていたんですよ。
──新ポケピのキャラクターづけは、皆さんでされたのですか?
北川:新ポケピは、設定先行のものがあれば、デザイン先行のものがあったりして、かなりの数が候補にあがりました。選出する時は、会議室の壁にキャラクターがずらっと貼り出されて、かなり壮観でしたよ。そこからキャラクターの印象と、全体のバランスをみながら、じっくりセレクションしていきました。
岩片:シナリオ側からは、マヌケな悪役としてシーザーを、ストーリーのカギを握るポケピとしてノラをそれぞれオーダーして、デザインを起こしてもらいました。
──『どこいつ』では、トロが終盤で「人間にしてくれる方法を教えてくれる、額に三日月傷のある猫仙人」に会いにいくというくだりがありますが、もしかしてそれがノラなんですか?
岩片:そこは、想像して楽しんでみてください(笑)。自分たちのオーダーの他に、見た目のおもしろさで選んだ部分もありますよ。また、デザイナーさんが「ビックリすると気絶する」なんてコメントを書いてくれたココや、パンク野郎なアンドリューの「ノーフューチャー!」というセリフ、ミツルのまっすぐな性格なんかは、そのまま採用されています。
北川:岩片さんが「俺パンクわからない」ってくじけそうになっていたんです。そこで、「パンクとは何か」という話し合いがもたれたりして、アンドリューがパンクに走った理由から考えていきました(笑)。そうやって、ひとつひとつキャラクター設定を作り上げていったんです。
──ポケピというキャラクターが確立しているので、シナリオでは苦労されたと思うのですが。
岩片:オリジナルポケピは、キャラクター設定で悩まずに済んだので、実は作りやすかったんです
。ただ、新しいポケピの性格を把握しながらのシナリオ制作になるので。意外と計算どおりにはいきませんでした。シナリオを作っていくうえで、トロを中心としたポケピのアイドル映画を描くようなつもりで作成していきました。ストーリー性を押し出すより、ポケピの魅力を引き立たせるような形で組んでいったつもりです。
──ストーリーは、どのように構成されていったのでしょうか?
北川:みんなでいっしょに話し合って方向性を決めて、それを岩片さんが構成するという形ですね。昔から知っている間柄でしたので、遠慮なく要望を伝えさせてもらいました。
岩片:当初は「夢咲町=夢の町」みたいな、ポケピと人々とのファンタジックな物語を考えていたんですよ。そこから、現実とすり合わせていってリアリティを取り入れていこうと。また『トロ星』は、1作目『どこいつ』のお話しを原点として描かれているんです。人間になりたいという「夢」を持っている部分が、トロの魅力。それが、今回の物語のテーマにもなっています。
北川:実は『どこいつ』の世界自体、現実世界に近いと思うんです。そこに純粋無垢でまっさらな心を持った「しゃべれるネコ」がいて、見たこと感じたことを話してくれる。トロを通して、プレイヤーに新鮮な気持ちで日常を振り返ってもらうためには、あまりにも日常とかけ離れたファンタジックな世界だと難しくなってしまうんです。
──途中でトロが「夢」を否定されたりと、今までにない厳しい展開もありましたね。
北川:それは岩片さんのテイストですね(笑)。各話で語られる夢も、実はそんなにたいそうなものはなくて、ささやかなものばかり。
岩片:「現実はそんなに甘くないぞ!」と(笑)。夢を叶えるといっても、ファンタジーの世界のように急に自分が変わるものじゃないし。本人の視点や気の持ちようだと思いますよ。アンドリューじゃないけど、気持ちが変わることで「自分を取り巻く世界も変わっていく」んだと。そういうところで、ゲームの世界を身近に感じてほしかったのもあります。でも、リアリティを出そうとするあまりに、登場人物の平均年齢を高くし過ぎてしまって(笑)。はじめ、マユやヒカリ、ダイスケあたりの中高生の層がまったくいなかったんです。アパートにはリストラされたおじさんや、貧乏なカップルとかが住んでいたくらいで。ボツになってしまった夢には、ウラ山のヒミツ基地なんてのもあったんですよ。
──クセのあるキャラで唯一残ったのは、カオジャイということになるのでしょうか?
岩片:カオジャイは、インパクトが強すぎて外せなかったんです。アパートの住人たちの案を出すときに、私が思いつきで「インド人」と書いて、それがなぜか「タイ人」になっていって、カオジャイが誕生したといういきさつがあります。
北川:キャラクター誕生の裏側としては、まず、みんなで自分の夢を出しあうところからスタートしました。それを選出していって、そこからキャラクターが生まれたという形ですね。
岩片:シナリオを構成しつつ、キャラクターも絞っていったので、キャラクターが減ることによってつじつまが合わないなんてことも出てきたりして、結構大変な作業でした。でも、ゲームできあがってから1つだけ後悔したことがあったんです。エンディングのスタッフロールで、制作者の名前とともに、私たちの夢もいれればよかったなぁと。そして、最後にトロとプレイヤー自身の夢を表示するような演出があれば……と思いました。


●胸キュンの名シーンが盛りだくさん!
──舞台の上で繰り広げられる、お芝居風の演出というアイディアはどこからきたのですか?
北川:シナリオ担当と デザイン担当で話し合って、人の心情をみせるには舞台が一番伝わりやすいんじゃないかということになりました。そこから人形劇や演劇など、いろいろなアイディアが出たのですが、うちのデザイナーが急に「これはドリフだ!」って言い出して(笑)。舞台のような区切られた空間で、ドリフのように書き割りの街があって、そこでドラマを表現しちゃおうと。本当はドリフみたいに「舞台セットごと回転させてシーンをチェンジしたいね」なんて言ってたんですけどね(笑)。
──特に、トロの登場シーンが衝撃的だったのですが、どなたがお考えになったんでしょうか。
北川:出会いのシーンを考えているときに、うちのプロデューサーの五十峯が「トイレを開けて、なかにトロがいたらおもしろいよね」って言い出しまして。ドアを開けたらトロが寝ているっていう、ビジュアルのインパクトで決まりました。
岩片:初期には、トロが「いい物件が見つかったのニャ~」と言って、不動産のチラシを持ってくるというアイディアもあったんです。でも、ちゃんとした出会いのシーンを作ろうとなった時に、場所がトイレになってしまった(笑)。
──お2人の『トロ星』のなかで「ここがイチオシ!」というシーンを教えてください。
岩片:各話いろいろあるんですが、第3話のノブユキとアキのプロポーズかな。もともとは指輪をノブユキに届けて終わりだったんですが、せっかくだから告白するところもみたいよねって言われて「聞いてないよー」とボヤきつつ、書き上げたんです(笑)。
──男性主人公の場合、ノブユキが男にプロポーズするという光景になりますよね。
岩片:自分でも、ストーリーを書いているとき「これはおもしろいことになるな」と思いました。『どこいつ』ならではの行き過ぎた誤解でも、プレイヤーは楽しんでもらえるんじゃないかなと。たとえありえないくらいの行き違いでも、ボケてておもしろければ理解してもらえるかなって。あと、北川君が力を入れた、第6話で美女3人が集まってマユを変身させる場面も注目してほしいです。
北川:夢咲町の「チャーリーズエンジェル」だって言ってたら、スクリプターものってくれて、ものすごく凝った演出をつけてくれたんです。
岩片:ほかには、第6話にあるトロとのお別れの後、オリジナルポケピとの友情が描かれるあたりが気に入っています。実は、スズキが何度かオイシイところをもっていってしまっているんですが。
北川:スズキがピンポイントで活躍しているのは、私が好きなポケピだっていうのが大きいです。地底湖シーンもそうですが、なるべくおもしろい演出を考えるようにしていました。
岩片:本当は、私もサブイベント制作の輪に混ざりたかったんです。でも、メインのシナリオを考えるのに手いっぱいで加われず、「みんな楽しそうだなあ」って(笑)。あの頃は、スケジュールが詰まっていて記憶が飛び飛びだったりしてますが、一番苦しんだという意味では最後の2話も外せません。
北川:大晦日から元旦にかけて、ちょうど最終話のチェックをやっていまして、ピンチのトロを勇気づける登場人物たちのシーンを眺めながら、思わず感極まってしまったこともありました。
──制作現場のご苦労が伝わってきます。北川さんのオススメシーンは最終話になるのですか?
北川:1番って言っちゃうと、どうしてもラストが思い浮かびます。でも、それは置いておくとして、岩片さんもさっき言った第6話でトロが家出して、オリジナルのポケピたちが一緒に探してくれるシーンが好きですね。トロが無事戻ってきたあとに、アパートの灯かりをジュンやスズキたちが外から眺めて、2人を影で暖かく見守っているシーンが好きです。これまで、オリジナルポケピの5人のつながりはあまりはっきりと描かれることがなかったので、あのシーンは印象に残っています。あと、第7話の終わりに、アパートで敬遠されていたゴローを囲んで、住人たちがたまご酒で乾杯するところが、ちょっといいねっていう。本当に、各話思い入れのあるシーンっていうと、きりがないんですよ。
──お2人にとって『トロ星』は、思い出のシーンの数々が凝縮された1本なのですね。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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岩片 烈 氏
(いわかた れつ)
岩片烈氏
シナリオライター。本作ではストーリー原案とシナリオを担当。これまで『アークザラッド精霊の黄昏(SCE)』『街(チュンソフト)』などのシナリオを手掛ける。好きなポケピはジュン。

北川 竜大 氏
(きたがわ たつひろ)
北川竜大氏
SCE第一制作部所属。本作ではシナリオディレクションを担当。他の『どこいつ』シリーズでは、『トロと休日』を手掛ける。好きなポケピはキッコ。

-どこでもいっしょ-
トロと流れ星
画面写真
■メーカー:SCE
■対応機種:PS2
■発売日:4月1日
■価格:6,090円


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