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 マイクロソフトの次世代ゲーム機「Xbox 360」に、『ブルードラゴン』、『ロストオデッセイ』のRPG2タイトルを発表したミストウォーカーの坂口博信氏。すでにニュースや雑誌などで参入の経緯や、タイトルの内容については発表されているため、ご存知の方も多いだろう。Xbox 360が正式発表され、注目を集めるE3・マイクロソフトブースにおいて、短い時間ながら坂口氏に取材できる機会を得たので、あらためて氏が手がける新しいRPGを中心に、お話をうかがった。

――坂口さんは、日本を代表するRPGを作ってきた方ですが、今回なぜXbox 360で、2本という形でRPGを作られたのか、その経緯を教えてください。
坂口博信氏(以下、坂口。敬称略):最初は、特にハードは何も決めていなかったんです。スクウェアをやめてから2年半ほど休んでいたんですけども、去年の頭ぐらいから、やっぱりモノ作りを続けたいなという個人的な思いからスタートしました。1つはここでせっかく再スタートなので、作り方を変えたかったんです。以前は大組織のトップでやっていましたので、自分の抱えている開発陣をどう回していくかという考え方からスタートしていました。そうではなくて、最小単位で、本当に自分が納得いくものができるまで、シナリオとかコンセプトとか、テーマだったり、いわゆるプリプロダクション(制作準備)ですね、これをずっと繰り返して、このプロジェクトに人とかモノとかお金を投入してもいいと思えるまでじわじわ練り込んで検討しました。それで、ミストウォーカーを立ち上げて活動を始めたんですけど、ちょうど井上さんとか鳥山さんとか、植松さんとか(※1)昔から知り合いで、飲み会もしながら、それなら一緒にやろうよ、という話になって、2つのプリプロの終盤が見えてきました。2つ見えてきたっていうのは、井上さんと鳥山さんっていう2人の存在が大きいです。2人とも世界観もキャラクターも違うし、そこからやっぱり自分が発想するゲームも違うものでしたから。一方で、川井さんと丸山さん(※2)というマイクロソフト(MS)の方がいまして。かつて、RPGはアメリカでは絶対売れないという時代がありました。『FFVI』までですね。スーパーファミコンの頃です。その後『FFVII』も無理だろうと言われていたとき、なんとかしたいと一緒に仕事をしたのが、丸山さんなんです。アメリカ中駆けずり回って、『ファイナルファンタジー』という名前を覚えてもらえた。そこで、彼には信頼感がありましたし、川井さんのほうは、『FFVII』からプログラマーで、『FFIX』ではメインプログラマー兼ディレクションもやっていて、開発者として信頼感がありました。僕はゲーム作りはプログラマーしだいだと思っています。プログラマーが最終的にしっかりしないとゲームが崩壊しますから。こうした2人がいたからですね。とくにXbox 360を選んだというわけではなく、信頼感のある、マーケティングと開発者と組めたからです。ちょうどプリプロも進んでいましたし。なにしろ、本制作にあたっては、大量の人、資金も必要です。そこも、MSが考えている強いRPGがほしいというところと、あったということです。
――これは、はじめから次世代機で、ということで進んだのですか?
坂口:
いや、そうでもなかったです。現行機でもいいかなと思っていました。ですから、そういった意味で、他社と組んで、別の現行機で『ブルードラゴン』ということもありえましたし。
――坂口さんといえば、ビジュアルに凝るというイメージがありますが、過去の『FF』を見ると、システムも工夫されたものでした。今回は、そういったシステムとか、RPGのスタイルみたいなもの対して、どう考えていらっしゃるのでしょうか。
坂口:そうですね。ビジュアルは当然、次世代機なのでハイビジョン解像度だし、映像を見ればわかると思いますが力は入っています。しかし、今回作りたいのは、できあがりはちょっと違う形になると思いますが……、昔ファミコンカセットの時代は、1マス1マスを確実に総当りして、結果的にやり終えたときに、このカセットの中でやり残したことはないっていう征服感があったじゃないですか。あれに近い感覚がほしくて。とにかく反応させたいんですよ。きれいな映像なだけじゃなくて、その映像のいたるところ、あちこちに反応があって、イコールそのぐらいのデータが潜んでいる、仕掛けがしてある、ということです。それをものすごい量にすることで、触るだけで楽しく、新しい場所に行ったときに“ここには何が仕掛けられてるんだろう”という、ゲームならではの魅力が生まれると思います。そこは工夫したいところです。鳥山さんの絵による「影」がドラゴンに変化するのは、ビジュアル的な考えからきていると見られがちですが、かなりシステムよりの話なんです。あそこが、いわゆる転職とかジョブチェンジで、切り替えができます。さらに手に入れたものを組み合わせていく要素、スキルの組み合わせもありまして、かなりやりこみ系のゲームなんです」
――『ロストオデッセイ』のほうは、ストーリー性を重視した作品なのでしょうか?
坂口:
最初の発想は重松さん(※3)と組みたいという気持ちがありました。小説のファンなんです。結構ほろっとくる話が多いじゃないですか。そのような、絶対いままでゲームで味わったことのない感動を、ゲームに埋め込みたいなというのが最初の発想です。千年ぶんの家族とか思い出といったお話を重松さんに語ってもらって、こういう涙はゲームで流したことはないという、ちょっと新鮮な要素を入れたいと思っていました。
――鳥山さんと井上さんが参加されたというのは、大きな驚きだったのですが、おふたりが参加された経緯を、改めて詳しく教えていただけますか?
坂口:まず井上さんは、6回か7回、仕事やりましょうよみたいな形で飲みましたよね。最初は“ボクは正直ゲームはやらないし、あんまりデジタルなことはやらないので、興味はない”ということでした。そういうなかで、大きかったのは重松さんでした。重松さんとの話が先だったんですよ。インタビューで重松さんと対談みたいなことをしたことがあって、実は同じ年で“あしたのジョー”の話で盛り上がって、同世代だったみたいな。そこで、井上さんも重松さんのファンで、「(重松氏が参加したのは)なんで? 重松さんゲームっぽくないじゃん」と。そこから今の、違う話を入れたいんですよ、という話をしました。そこで彼にフックがあったみたいで、何か違うことをやろうとしている、と興味を持ってもらえたようです。井上さんも人間を書きたいという人なので、僕も“そうなんですよ、人間を書きたいんですよ”と、重松さんの話をしているうちに、「じゃ一緒にやろう、それはボクが目指しているものと一緒だから」と。鳥山さんは、『クロノトリガー』のころから何作かやってましたし、最初は意外とすんなり始まったんです。ただ、最初僕が作ったストーリーをやるなかで意見が合わなくて、ヘンな話ですが、一度話がなくなりそうになったんです。そこで、(鳥山氏の地元である)名古屋で話をしたときに、鳥山さんがぽそっといくつかアイデアを話してくれたんです。あ、それはいいなと思って、そのあとはがーっと進むことになりました。
――それはゲームのアイデアだったんですか?
坂口:ストーリーのどんでん返し系のアイデア1個と、あと中盤から後半にかけての、こういうのって今までなかったよね……みたいな、そういう話です。それをいただいて、プロット(ストーリーの原案)をもう1回書き直して、そうしたら賛同してくれました。そこで一気にこれはやろうよみたいなノリでしたね。やりましょうって手を組んでからやるわけじゃなくて、とりあえず走りだしながら実際に歯車があうかどうか、作りつつこうなった、という感じです。
――スクウェアの頃から、そのように人と話して作品を作っていく、という制作スタイルだったんですか?
坂口:違いましたね。スケジュールありきですから。自分のところで滞ると、100人のスタッフが遊んでしまうわけじゃないですか。そこは組織の長でしたから。会社を離れて、一番やりたかったのは、ホントに自分が納得できるまで周りの人たちと話をしながら、まずは形にならないかもしれないけど、アイデアをもんでみるということです。そこは今回よかったことで、思ったとおりにやれていることの1つです。実はほかにも、いろんな作品の話をしてまして。表には出せないけど、別の方とこんなのおもしろいよねなんていうのを話ながら、文章にしてみたり絵にしてみたりしています。いつ形になるかわからないですけど、ひょっとしたらどこかでぱっと出るかもしれません。
――この2タイトルが実際形になったのは、MSの全面協力もあったからでしょうか?
坂口:そうですね。MSとしても、日本市場での大型RPGを必要としていましたし、そこはお互い、何にも隠し事せずに話しましたから。鳥山さんと井上さんが賛同してくれて形になってきたものなので、なるべくいい形で作品にしたい。そのためには技術や資金が必要なので、そこはちょうどお互いの必然性があったということですね」
――ここまでうかがったところでは、マイペースで制作を続けられているように感じられますが、MS側からのプレッシャーは?(笑)
坂口:それはプロジェクトですから、いろんなプレッシャーがありますが、「クリエイティブに関することは任せてくださいよ」、ということは最初にお願いしました。そこはMSが口を出すことはないんで、坂口さんの考えてる一番おもしろいものを作ってくれということで、全面的に信頼してくれています。もちろんスケジュールは、なるべく早くと言われています。現在のXbox以上に360が日本で成功していくためには、自分が作るものがハードの発売に近いほうがいいと思いますから、そこは同じ思いで、ボクも現場にプレッシャーをかけてます(笑)。

――ありがとうございました。
 






坂口 博信
坂口博信氏
 株式会社ミストウォーカー代表取締役。スクウェア・エニックス(旧スクウェア)にて『ファイナルファンタジー』シリーズをはじめ、『クロノトリガー』など数々のRPGを世に送り出す。同社退社後、開発スタジオ・ミストウォーカーを設立。Xbox 360向け2タイトルのほか、ニンテンドーDS向けのソフト制作も発表されている。

ブルードラゴン
坂口博信氏
 不思議な魔力を生み出す影を持った少年“シュウ”。すでに滅びたはずの魔法を使う古代人“ネネ”に立ち向かうために、幼なじみの“ジーロ”、“クルック”と一緒に冒険を繰り広げる。「影チェンジ」と呼ばれるシステムを利用することで、ソード、アサシン、パワーマジックといった多彩なスキルを自由に生み出すことができる戦闘システムが注目を集めている。
■メーカー:マイクロソフト
■対応機種:Xbox 360
■ジャンル:RPG
■発売日:未定
■価格:未定
■関連サイト:ミストウォーカー/マイクロソフト


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(C)2005 Microsoft Corporation. All Rights reserved.

ロストオデッセイ』
坂口博信氏
 魔導産業革命と魔の力を得た人間の欲望が渦巻く世界を舞台にしたRPG。1,000年を行き続ける主人公“カイム”を中心に、仲間たちとの出会いや別れ、人間の揺れ動く心情などが描かれる。
■メーカー:マイクロソフト
■対応機種:Xbox 360
■ジャンル:RPG
■発売日:未定
■価格:未定
■関連サイト:ミストウォーカー/マイクロソフト

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(C)2005 Microsoft Corporation. All Rights reserved
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【注釈】
※1

  井上雄彦氏…いわずと知れたコミック作家。代表作「スラムダンク」、「バガボンド」など。
 鳥山明氏…もちろん、日本を代表するコミック作家。代表作「ドラゴンボール」、『ドラゴンクエスト』シリーズなど。
 植松伸夫氏…作曲家。スクウェア・エニックス(旧スクウェア)にて多数のゲームミュージック手がける。昨年10月に独立。坂口氏が手がける2タイトルの音楽を担当する。

※2
 
丸山嘉浩氏…マイクロソフトXbox事業本部長。

※3
 重松清氏…作家。山本周五郎賞、直木賞などを受賞。代表作「ナイフ」、「ビタミンF」など。