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 ドライビングだけでなく、眺める、集めるといった充実のカーライフが楽しめる『グランツーリスモ』シリーズ。世界の実車を再現した、その圧倒的なリアリティと豊富な収録車種&コースは、いまや国内のRCGファンのみならず世界中のクルマ好きの注目を集めている。ここでは、最新作『GT4』に収録される新要素を中心に、気になるゲーム内容を『GT』シリーズのプロデューサー・山内一典氏に直撃! 残念ながら発売日が延期になってしまった『GT4』だが、発売が待ちきれないファンは、このインタビューをチェックしてさらに期待に胸を膨らませておこう!<このインタビューは10月に収録されました>

●「見るだけの『GT』」を実現した新モード「B-spec」とは?

――まず最初に、『グランツーリスモ(GT)』シリーズ初の試みとなる「B-spec」モードについておうかがいします。このB-specはもともと、『GT3 A-spec』のすぐ次に出したかったそうですが?
山内一典氏(以下、山内。敬称略):ええ、出したかったんですけど、けっこうズレ込んじゃいましたね……。今回のB-specと、構想自体はまったく同じでした。ほんとに昔からアイデアはあって、絶対やってやろうと思ってたんですよ。「走らないグランツーリスモ」っていうのがあったらカッコいいなあって思ってね。あれだけ走りにこだわっていながら、プレイヤーに運転させないのって、なんかカッコよくないですか?(笑)。
――技術的な問題から、当時は見送ったのですか?
山内:そうですね。やっぱり、B-specにたどりつくまでには技術的な段階があるんですよ。例えばリアルドライビングシミュレータを作ろうと思ったときに、まずはクルマの挙動をしっかりさせないとダメですよね。そのクルマの挙動がしっかり再現できて初めて、ドライビングとはなにか、というところにいくんですよ。で、ドライビングとは何かということがわかってきたら、次は敵車も走らせたいと思うじゃないですか。そうしたら、敵車のAIをなるべく人間に近づけるっていう努力を続けていく。これがある程度のレベルになってきたところでやっと、あのB-specって実現できるものなんですね。この10年間はリアルドライビングシミュレータに関心があって開発を続けてきて、それがあるレベルに達した。だからこれからの10年は、AIの研究に注力していくことになると思っているんです。AIの再現というのは、要は人間を再現するということ。だからそうカンタンには完成しないと思います。でも、そこに行かないと『GT』の世界は広がらないっていうのがあって。だからB-specという呼び方には、そういう意味もあるんです。
――それは今後C-spec、D-specと進化していくという意味ですか?
山内:いえ、単純にCとかDっていう順番を示しているわけではないです(笑)。B-specというのが、つまり「見る『GT』」ということなんだけれども、そこでコアとなってくるテクノロジーというのが、敵車のAIなわけですよね。その敵車のAIっていうのは、人間らしい振る舞いを常に要求されるわけだから、究極的には人間なんですよ。「見る『GT』」というのが今回、ようやくゲームとして単体で作れるレベルになったので、『GT4』でB-specを入れました。だから、A-spec(※1)の進化に10年かかったように、今度はB-specの進化が10年間続くことになると。やっぱり『GT』って、ドライビングシミュレータとして進化を重ねてきて固定ファンも多いですけど、同時に、クルマは好きだけどライセンス試験でゴールドを取っていくところに楽しみを見出せない人がいるのも事実。そういう人たちにはぜひ、ゆったりとクルマの美しさを堪能する楽しさを知ってもらえればいいなと思っているんです。
――今回のB-specでは、すでに敵車も自車もAIで動いていると?
山内:そうですそうです。もうその開発は底なし沼ですね。人間と同等になってからがスタートラインというところですからね。B-specでは、自車のタイヤの減りや順位に応じて、ペース変更やピット指示を出したりしますが、敵車の方もそういうことを考えて走っているわけです。
――こちらのペースが速いと、敵車もそれに合わせてペースアップするとか、そういう対応の仕方ですか?
山内:はい、ペースを上げていくとミスをするので、そのあたりは人間的といえば人間的ですね。単純に言うと、「コーヒーを飲みながらでも遊べる『GT』」を作りたかったというわけです。B-specは、私のなかではほんとに『GT』の根底を揺るがすような大きな変化だと思っています。これまで『GT』シリーズの1作目から3作目まで買ったことがあるユーザーって400万人くらいいるんですけど、でもそのなかで離れていっているユーザーも約200万人はいると思います。離れていったユーザーのなかには、実際遊んでみたしクルマのカッコよさもわかっているんだけど、でもちょっと難しくて遊べないやっていう人もやっぱりいると思うんですよ。そういう人にはぜひ、B-specを遊んでもらいたいと思っています。
――B-specの細かい部分についてお聞きします。まずピットインではどんな作業が行われますか?
山内:タイヤ交換と燃料の補給ができます。そのときにソフトタイヤとかハードタイヤとか、タイヤの種類も変更できます。ピットレーンに入ったところでメニューが開きますので、そこで前後のタイヤと給油量を設定してもらえれば、停止したときにそのタイヤに交換します。これは通常のA-specでも同じです。人の動きがリアルなので、きっとピット作業が見たくて意味もなくピットに入ってみたりしちゃいますよ(笑)。
――ピット作業の長さは変化するものですか?
山内:ええと、タイヤ交換の時間は一定ですね。でも給油は給油量に応じて時間が変わるんで、タイヤ交換の時間以内に給油を終わらせれば一定ともいえるし、もっと入れようと思えばそれに応じて延びていきます。まあこの辺はF1と一緒ですね。ピットクルーがミスしたりはないですが(笑)。ただ、タイヤの種類を決めないと交換作業が始まらないので、ピットインしてから給油までの間にプレイヤーが選択しないと、すぐには作業にとりかからないんですよ。ジャッキアップした状態で止まっちゃうんで。あと耐久レース以外でもピット作業はできます。スプリントレースでもタイヤ交換をしたい人はぜひ(笑)。あとレースカテゴリー的には耐久レースが増えていますよ。以前より耐久レースが苦にならないと思います。だからおそらく、人によってはスプリントレースはA-specでガンガン走り込んでお金を貯めてクルマを買って、耐久レースはB-specでゆる~くプレイするのもアリかなと。


●アーケードモードとB-specモードの関係は?
――アーケードモードでは、マシンのパワーなどをカンタンに変更できるようになってますね?
山内:「クイックチューン」ですね。あれも実は大きな変化なんですよ。GTモードではパーツの装着、セッティングなど幅広いチューニングができますよね。でもアーケードモードのは、今までは標準状態のクルマでしか遊べませんでした。そこで今回はアーケードモード側にも、GTモードほど幅広くはないんだけど、ちょっとしたパフォーマンスのチューニングはできるようにしたんです。主にパワーとウェイトとタイヤを、ちょっとだけいじれるようになってます。
――クイックチューンはB-specで遊ぶときも選べますよね。
山内:はい。B-specっておもしろいもので、ある程度やり込んでいくと、勝つだけが目的じゃなくなってくるんですよ。「いいレース」が見たくなるんですよね。だからぶっちぎりで勝っちゃうときに、もうちょっとコーナーリングスピードを落とそうかなとか、パワーを下げてみたらおもしろいかなとか、そういうことをしたくなるんですよ、どうしても。そのときに、ちょこっと自分の車のパフォーマンスを変えることで、レースをよりおもしろく演出できる。実はそういう理由から入ってますね。
――つまりクイックチューンは、パワーは上げるよりはむしろ下げる方向で使うと?
山内:そうそう。で、逆に相手の方が速かったらちょっとパワーと上げてみるとか。そうしないと、アーケードモードでB-specってなかなか成立しないんですよ。例えば敵車のラインナップが一定でパフォーマンスも一定だと、あるクルマでは絶対勝てないし、あるクルマでは絶対に勝てちゃうってことになりがちじゃないですか。だからその幅はユーザーにちょっと調整してもらって。それと同時に、A-specでアーケードを遊ぶユーザーにとっても、クイックチューンがあれば、自分の腕ではちょっと勝てないかなってときにちょっとパワーを上げて再挑戦してみよう、ということもできるので、敷居は広がってると思います。
――確かにレースは競り合っていたほうが、見てておもしろいですもんね。
山内:B-specは最終的におもしろいレースを組み立てる楽しさってところに行き着きますね、やっぱり。だからぶっちぎりで勝っちゃいそうなときは無駄にピットインしてみたりね(笑)。チーム監督というよりは、レースを観戦に来た観客の視点で楽しめるモードですね。


●B-specでGTモードも楽チンプレイ!
――では次にGTモードについてお聞きします。以前、GTモードのイメージマップが公開されましたが、ゲームでもあのような感じで表示されるのですか?
山内:はい、実際のゲーム画面もあのようになります。画面では一部が見えている感じになりますけど、全体はあんな感じになります。いままで「GO RACE」の1つにまとめられていたレース群が、コンセプト別にいろんなホールに分けられているんですよ。耐久レースのホールがあったり、初心者向けレースのホールがあったり。あと今回は、ミッションクリア型のレースも導入しようと思っていますけど、そのためのホールがあったり。以前だったら「GO RACE」に入るとビギナーリーグとかアマチュアリーグとかあって、その中にクラブマンカップとかサンデーカップとかありましたよね。その、ビギナーリーグといっていたものが例えばビギナーホールというかたちで分かれたりしていることになります。
――「ミッションレース」というのは、『GT4P』のスクールモードにあったような感じのものですか?
山内:はい、スクールモードの後半で実験的にやってまいすよね。あれに近いものになります。レースってやっぱり、ゼロからスタートするだけじゃつまらないって思ったんですよね。全員ゼロスタートから始めて、そこからレースのアヤだったりドラマを作ろうと思うと、どうしても長いレースが必要になってきちゃうんですけど、そうするとプレイするのがすごくつらいですよね。だったら80周するうちの、残り10周から始まるレースがあってもいいかなって。それでミッションレースの導入を決めました。
――参加できるレースは、少しずつ増えていくんですか?
山内:実はB-specでプレイするぶんには最初から全部選べるようにしようと思っています。A-specでプレイする場合は、ある程度ドライビングのレベルを合わせないといけないので、ライセンス試験をちゃんと受けて、クリアしたぶんだけA-specのレースに出られる仕組みになります。だから今回は、B-specだけでGTモードをクリアする人がかなり多いんじゃないかなって思います。ライセンスを取らずにB-specで全部のレースを勝ってしまうという人もいるんじゃないでしょうか。
――A-specとB-specの選択は、アーケードモード同様にレース直前になりますか?
山内:はい、それでA-specをプレイできないレースにでは、A-specの選択ボタンが出ないですから。これはGTモードのシステムとして、根本を覆す大きな変化だと思いますよ。A-specでのプレイは、ある種のストイズム的なプレイだったり、ユーザーの意識的な努力でもって切り開いていく遊び方になって……その一方でB-specは、クルマの美しさ、景観の美しさなどを味わうだけで、まったくがんばらなくていい(笑)。ひたすら勝てるレースで賞金を稼いで、勝てるクルマを作っていけばいいですからね。
――B-specでも、A-specと変わらず賞金がもらえるんですね。でもB-specで勝つためには、やはりそれなりのクルマが必要になりますもんね。
山内:それはそうですね。ル・マンカーのレースにコンパクトカーで出場しても絶対勝てませんし(笑)。
――GTモードの最終目的の1つとして、達成率は今回も用意されていますか?
山内:はい、達成率はもちろん出します。ただ、達成率を上げていくことはB-specでも可能なので、自分の力で切り開いていった証は、もはや達成率では表せませんよね。そこで今回は「A-specポイント」という、相手のクルマよりも不利な条件で戦った場合により高いポイントがもらえるスコアシステムを導入しようと思っています。このポイントが、『GT』の上手さを決めることになりそうです。
――『GT4P』で表示されていたポイント(※2)と同じようなものですね?
山内:そうです。あれよりももうちょっと複雑にしようと思っています。今までのレースって何馬力以上は出場できないというようなレギュレーションがあったじゃないですか。あれって、やり込むユーザーにとってはああいう規制がないと達成感はもちろんないんですが、でもユーザーにとっては、ものすごく速いクルマを持ち込んで勝ちたいという人もいるわけです。だから今回はそういうレギュレーションを撤廃しようと思っています。例えば500馬力、1トンのクルマによるレースがあったとしましょう。そこに400馬力、1トンというクルマで挑んだとしたら、明らかに不利ですよね。でも、その不利に状況で勝ったら、より高いポイントを上げましょうと。逆にそこに1000馬力1トンというクルマで出場したら、楽に勝てるかもしれない。その場合にはもらえるポイントは低くなると。そのような感じで、このポイントはプレイヤーの腕を表示するポイントになるのかなと思います。だから、まず誰でも全部が遊べることが大前提で、次に誰でもクリアできることが前提。その上で、なおかつよりうまく、より美しく勝とうと思うユーザーにとっては、そういうポイントを用意して、ゲームバランスをとろうと思っています。だからより高ポイント獲得を狙って、不利なチューンをしてがんばって勝っていくっていう楽しみ方ができます。そういう要素がセットでないと、『GT』のゲームバランスは難しいですよね。ユーザーが要求するレースのレベルが高くなっていっちゃうから、どんどん難しい方向に進化してしまう。いままでも、ハードコアな人の欲求を満たしつつ、初心者ユーザーにも満足してもらえるっていう両立がすごく難しくって。だから今回はレギュレーションの撤廃とB-specの導入によってどんなユーザーでも遊べる状態を作った上で、ドライビングが好きなやり込み派のユーザーには、そういったポイント獲得を狙って高いレベルのレースを楽しんでいってもらうようにしました。


●初心者も上級者もそれぞれのスタイルに合った遊び方が可能に
――そういったハードコアなユーザーとライトユーザーの両立っていうのは、以前から考えていたことですか?
山内:はい、それは前々から考えていました。リアルドライビングシミュレータのファンも多いですが、それよりもクルマやきれいなグラフィックは好きだけど100分の1秒単位でタイムを刻む走り込みはちょっと…というユーザーの比率の方が多いんですよ。だから、両者それぞれが満足できるように作るっていうのは、かなり切実なテーマだったんです。シリーズを重ねるたびにいろいろなトライをしてきて、今回ようやく1つの答えが作れたかなって思っています。私自身も、『GT』の攻めるドライビングは好きですが、たまには見たいだけのときもありますからね。
――あと、GTオートでは洗車もありますね。
山内:みんながクルマを洗ってくれるので、あれも見てて楽しいですよ(笑)。
――オイル交換では、下に潜っていますよね?
山内:あれはちょっと苦しいかな? リアルにオイル交換をさせようと思ったんだけど、オイルフィラーキャップの位置ってクルマごとに違いますし、ボンネット開けるなると、エンジンルームの中も全部作らないといけないじゃないですか。だから、下に潜ってドレンボルトを開けて、下からオイルを抜いている雰囲気にしてみました(笑)。オイルは、交換するとちょっと馬力が上がる効果があります。
――なるほど。ほかにもカーライフ的な要素はありますか?
山内:あと今回は、走行距離に応じてクルマがヤレてくる(時間が経つことによる劣化)かもしれない……。『GT3』でもこの要素はありましたけど、今回のは、そのボディのヘタりが操作していてなんとなく感じられると思います。。
――ヘタってくると、ボディのきしみ音がしてきたり?(笑)。
山内:さすがにそういうことではないですが(笑)。ボディ剛性を上げるパーツを用意しようと思っているんですが、それを付けるとわかりますよ。ああ、ボディがなんかシャキっとしたなって。その辺もおもしろいかもしれないです。中古車も、走行距離や価格によって、ヤレまくっているものがあるかもしれない。でもそれは補強してもらえればまたシャキっとします。ボディ剛性の補強はチューニングメニューの1つとして用意されます。あと、昔のクルマだと新車でももともとボディ剛性が低いので、それを補強して現代風にしてみたり。クルマごとにもともとの剛性が違うわけですしね。その違いがわかるようになっています。
――チューニングメニューでは新たに「NOS(ニトロ)」が追加されていますが、具体的にどうやって使うのですか?
山内:あれはタンクの容量が一定になっていて、噴射量を設定することで何秒使えるか決められますよ。例えば全噴射して、大幅にパワーアップするけど10秒でタンクが空になるように設定したり、そこそこのパワーアップだけど30秒噴射できるようにしたり。設定しだいで得られる馬力も変わってくるじゃないですか。だからそこはもうプレイヤーの自由。使うときはボタンを押すんですが、ストレートの立ち上がりでヒューンって追いつけたりして楽しいですよ。タンクの残りの量は画面に表示されます。
――チューニングメニュー内にある「ドライビングエイド」はなんですか?
山内:そこはトラクションコントロールやアンチスキッド、アンチアンダーステアといった、いろいろな電子制御系の設定ができます。全部オンにするとかなり楽チンに走れますよ。この機能は、新型車や旧車を問わず、基本的に全部のクルマにつけられるようにしようと思ってます。全部外したほうが速いとは限りません。絶妙にセッティングすれば、ある程度効かせておいたほうが速く走れます。効かせすぎるともちろん遅くなっちゃうんですけど。そのあたりは自分好みで、かつ速いセッティングを見つけてください。
――あとエアロパーツでは、リアウィングが変更可能になりましたね。
山内:最近実車でも多いじゃないですか、GTウイングをつけている人が。その流行を反映して付けられるようにしてみました。ほんとはエアロパーツを全部取り替えられるのが望ましいんだけど、収録車種にボリューム的にさすがにそれはムリでした。その楽しみは『GT5』に取っておいてください(笑)。今回はポン付けできるリアウイングを用意してみました。デザインは3Dタイプや2枚羽タイプなど数種類か用意してあるので、ユーザーの好みで使ってください。もちろん装着すればダウンフォースの調整もできるようになります。『GT4』はシミュレーション精度が上がっているので、セッティングの変化が以前よりもよりわかりますよ。ちょっとしたアライメントの変更なんかでも挙動の変化がすごくよくわかるので、その点もおもしろいんじゃないかな。
――挙動についてですが、ブレーキングするとものすごく前のめりになるじゃないですか。ブレーキングの前後の荷重移動が、見た目でよりわかりやすくなってますよね。
山内:そうですね、あれは開発に協力していただいているレーシングドライバーの方から、ノーズダイブの動きがわかりにくいっていう意見をもらいまして、ノーズダイブをより強調して見せるようにしました。実際のノーズダイブよりも大げさに見せるっていうのは、実は『GT2』まではやっていたんですよ。なぜ大げさに表現するかというと、通常の人間の視覚って水平角度20度くらいしか見ていないのですが、実車だったらそれでも動きがよくわかるんです。でもゲームって、水平角度が60度くらいあるので、実際の動きよりも小さく見えちゃうんですね。なので、それをよりわかるようにしようってことで、実際よりも数倍、ピッチを大きくして見せていたんです。『GT3』では一旦やめたんですけど、やっぱりあったほうがいいという意見が多かったので、それでまた復活させました。レーシングカーは視点変化が少ないですが、ノーマルカーはより大きくなっています。実車でサーキットを走っているときは、逆立ちするんじゃないかってくらいGがかかりますからね。だからその感覚が伝わればいいなっていうのがあります。
――でもリプレイではそんなに反映されていませんよね?
山内:そう、外観はリアルなんですよ。例えばリプレイで3度から5度くらいピッチしているとしたら、画面上では10度から15度くらいピッチしています。大げさに表現しているのは、あくまでも主観視点で運転してるときの動きだけです。
――今回、横方向のGもGメーター(※3)で表示されていますね。
山内:あのGメーターがあると、タイヤのタレ具合をチェックしたりできるんですよ。チャックがあれでわかるんですよ。クリッピングポイントについて旋回に入ったときに、例えばピークでメーターの振れが大きいとまだタイヤはあるってこと。タイヤが減ってくると、ピークの横Gも減ってくるので、それを見てタイヤ交換を決めたりとかできますよ。あとリプレイのときに、あのGメーターがきれいに立ち上がっているときはかなりいいドライビングだし、動きの幅が激しいときはあんまりいいドライビングじゃないということもわかります。ドライビングのチェックにも役立ちますよ。逆にドライビング中はそんなに気にするものではないかもしれませんね。


●挙動の見せ方もバージョンアップ!
――プロのドライバーの方の意見を取り入れたりしました?
山内:ニュルブルクリンク(※4)に関しては、本当にいろんな人にやってもらいましたね。ニュルブルクリンクの耐久レースに出場しているレーシングドライバーの方だったり、日産の開発に深く携わっている方に。ニュルはかなりおもしろいですよ。『GT4』で走り込んでから実際のニュルを走ってみて、ほんとにそう思いました。もう1周目からキレイに走れましたからね。あんなに気持ちいいサーキット体験は初めてでした。『GT4』が発売されたら、来年のニュルでのレースはレベルが上がっちゃうでしょうね(笑)。アウディTTで走ってきたんですけど、一緒に走ってるレーシングカーをバンバン抜けちゃって、ホント気持ちよかったです。やっぱり何年走ってても、時速200キロで全開で抜けられるかどうかなんて、実際に試してみないと判断はできないですよね? でも自分は事前に『GT4』をプレイして限界を知っているから、ここは全開でいけるとか、あそこはアンダーステアが出るけど縁石ギリギリで止まるから大丈夫、といったことがわかるんです。そういうクルマの挙動の限界レベルまでシミュレートできていたので、すごく気持ちよく走れましたね。ギャラリーもいっぱいいるんですけど、タイヤを鳴かせつつ限界走行で走り抜けると、後ろでギャラリーが沸いてるのがわかるんですよ。もう、『GT4』は発売せずに自分だけのゲームにしたいって思っちゃいましたね(笑)。
――鈴鹿サーキットはいかがです?
山内:鈴鹿は難しいですね、ほんとに難しい。これほど難しいコースだったのかって、収録してみてわかりましたね。この前、鈴鹿でF1が開催された後に、さっそく同じクルマを作って走らせてみたんだけど、あぁ1分33秒台ってこういう世界なんだなあって。体感しました。すごいですよ、鈴鹿の高低差って。
――オリジナルコースでは、新コースの中に旧コースのリメイクが入っていますね。
山内:そうですね。旧作のユーザーが慣れ親しんだコースを入れるってことは、絶対に大事なことだと思っているんです。今回、グランバレーとかトライアルマウンテンとか、『GT1』以来のコースをリニューアルして、一部レイアウトを変えたりして入れているんです。ユーザーのアンケートでは、トライアルマウンテンが一番人気でした。新しいコースを入れるのも大事だけど、古いコースをバージョンアップさせるのも大事なことです。
――新コースは山内さんの好みで選んだのですか?
山内:自分の好みもありますが、海外からのニーズにも応えています。例えばアメリカだったら今回はインフィニオン・レースウェイ(※5)が入ってます。ここはカリフォルニアの筑波サーキット的な存在なので、向こうの走り屋たちの要望が多かったんですよ。鈴鹿も要望はずっと前からあったのですが、やっぱりシミュレーションがちゃんとしないと、あれほどのコースは入れてもしょうがないだろうということで、今までパスしていました。今回は技術的に自信が持てたので、やっと入れられましたね。ツインリンクもてぎは、クルマのサウンドやデータ計測を行ったした場所なので、自分たちのホームグラウンドみたいなものでしたから。
――ライセンス試験では以前、縦列駐車のようなものを入れたいとおっしゃっていましたが、実現しましたか?
山内:『GT4P』でやった、パイロンを使った遊びはやりたいですね。縦列駐車は、やろうとするとサイドミラーが必要になったりするのでなかなか難しいですよね。基本的には『GT4P』と同じスタイルで進行していきます。
――また音声ガイドも入りますか?
山内:評判がよかったので入れたいところなんですが、ライセンスの数がすごく多いのでちょっとムリな感じですね。難易度に関しては、全部が全部難しくするのではなくって、じわじわとステップアップしていってもらえるものにしたいですね。それなりにがんばらないとクリアできないライセンスのあとには、ちょっとした息抜きみたいなものを混ぜながら。試験の数は50から100の間に落ち着きそうな感じです。クリア自体は難しくないと思いますが、でもゴールドクリアは頑張らないといけません。あれも、どんどんハードな要望が増えているんですけど、それに合わせて作っちゃうと普通のユーザーはぜんぜんできなくなっちゃうから、もうすこしゆったりとできるような作りを心がけています。こちらとしては、タイムうんぬんというより、クルマの動きをじっくりと学んでもらえたらうれしいですね。


●豊富な収録コース&車種は出し惜しみせず!

――GTモードでも、最初から色々なコースを走行できるのですか?
山内:そうですね、けっこう最初から遊べると思いますよ。今回、コースにしろ車種にしろ、あんまり隠さないようにしようと思っているんです。やっぱりちゃんと練習してからレースに臨んでほしいと思うし、なにしろ量が膨大なので、隠していたらきりがないっていうのもあって、最初から遊びの幅が広い状態で始めたいなって思ってます。マップの外側にあるコースでは、フリーランや草レース、走行会(※6)などが楽しめるようにします。走行会では、ほかの参加車が走っているところにピットから出て混ざって走るみたいなノリです。自分で勝手に目標を決めて、戦うわけじゃないんだけど、ちょっと付いてってみようかなって。あの走行会の雰囲気はちょっといいかも(笑)。
――ほとんどのクルマはお金を貯めれば買えるものですか?
山内:そうしようと思ってます。もちろんプレゼントカーというシステムも大事だと思っているので、そういうクルマもります。80もの自動車メーカーがあるので、そのラインナップを最初から並べるだけでもかなりのボリュームにはなりますよ。
――『GT4』は、従来シリーズと比べても圧倒的にボリュームアップしていますよね。車種しかり、コースしかり。
山内:そうです。でもね、こういう作り方でいつまで続けられるのか不安ですね。あまりにもやりすぎですよ。だからもう、次があると思うなよって感じ(笑)。限界に近い内容ですからホントに大変ですよ。700車種以上50コース以上というボリュームはスゴイです。
――実車を扱ったRCGでも、例えばD1(※7)だったり国産車だったりと、クルマのある1ジャンルに特化したRCGが多くなっていますよね。でも『GT』には、そういった要素がすべて入っているわけですし。
山内:私は『GT』はクルマの総合的な要素が詰まった、いわばRCGのOSだと思っているんです。そのOSに、それがレースだったりライセンスだったりチューニングだったりと、いろんなカーライフの要素がアプリケーションとして入っている。そういう意識で私たちは作っています。
――確かにRCGファンにとっては、『GT』が1つの基準になっているというか、RCGの標準となっていますよね。
山内:私たちはわりと『GT1』のときから、舞台のそでのほうでやってるつもりだったんですよ。王道のRCGを目指すわけでなく、自分たちが遊びたいRCGとして『GT』を作って。そういう意識はいまだに変わっていないんですが、でも気が付いたら舞台の中央に動いてきちゃっていて、あれれ、みたいな(笑)。いろいろなRCGがあって、どこか『GT』に似てる部分があったりすると感慨深いものがあってうれしいですよ。それって、例えばRPGを作ろうってときに、なんとなく『ドラゴンクエスト』を踏まえてしまうというか、マネてる意識すらなく、下地になっちゃってるっていう。決して中央に進もうとしてたわけじゃないのにそうなっているっていう今の現状は、なんか奇妙な感じですよね。
――異端から正統になったという?
山内:そうなんですよね。だからある意味心配なんですよね。自分たちは異端だよ、異端だから真似しちゃだめだよって(笑)。
――オンライン要素がなくなったことについては?
山内:オンラインについては、日本やヨーロッパに比べて一番ニーズが大きかったのが北米市場なんですよ。だからオンライン機能がなくなりましたっていう発表の後も、北米の反応は大きかったですね。アメリカはオンラインそのものがそれなりに立ち上がっているマーケットだからにニーズは多かったです。でも、『GT』みたいなタイトルは、ゲームスタート時からユーザー数が多いですよね。だから、いきなりオンラインを立ち上げるのはムリですよ。ゼロベースで始めたタイトルだったら、徐々にユーザー数が増えていくので対応できますが、『GT』だとそれこそオンラインサービスを開始した瞬間から100万人のユーザーが同時につないできちゃうとか、そういうレベルになることが考えられるので、それを支えるインフラを十ニ分に用意しておく必要がありますよね。でもやっぱり、オンラインは楽しいと思いますよ。今、社内ではアメリカにサーバを立ててオンラインで遊べるんですけど、かなり楽しい。やっぱり遊び方が変わるって素晴らしいことですよ。
――LAN対戦には対応していますよね?
山内:そうですね。一家に複数のテレビがある時代だし、PS2もあんなに小さくなったことだし、環境がそろっている人はぜひ遊んでみて欲しいです。もう、絶対的に楽しいですよ、LAN対戦は。最大6人同時プレイで遊べて、そこに観戦用のモニターを2台プラスしたら、もう夢のRCGになりますよ。ただこれは隠し機能的なものになるかもしれません。やっぱりいろんなセットアップが面倒なので、誰でも手軽にというわけにはいきませんから。
――うーん、お話を聞けば聞くほど、早く遊んでみたくなりました! 開発のほう、がんばってください!
山内:車種にしてもコースにしても、1つ1つの要素のボリュームがものスゴイから、妥協してもそれなりのものが作れるんですけど、でもやっぱり自分たちの作りたいものを追求していきたいですからね。とにかくいけるところまでこの制作スタイルを貫いていきます。まだまだやりたいことがいっぱいあるので、ホントに作るのは大変ですよ(笑)。
――楽しみにしています! 本日はありがとうございました。




山内 一典 氏
山内一典氏
(株)ポリフォニー・デジタル プレジデント/『グランツーリスモ』シリーズ・プロデューサー

おなじみ『GT』シリーズの生みの親。もちろん大のクルマ好きで、ホンダS2000、ポルシェGT3、ニッサンフェアレディZと多数のマイカーを所有。つい最近も、スゴイ最新スーパースポーツカーを購入したらしい……!?

聞き手:スピードジャンキー井上
 電撃PlayStationの走り屋ライター。愛車R32スカイラインを駆り、サーキットや峠、市街地(!?)を爆走している。最高速アタック中にエンジン&タービンをブローさせた経験アリ。日々『GT』シリーズでドラテクを磨いている。

グランツーリスモ4
画面写真
■メーカー:SCE
■対応機種:PS2
■発売日:2004年12月28日
■価格:7,665円
■関連リンク:
  公式サイトPlayStation.jp

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『グランツーリスモ』
シリーズとは?
 実在するクルマを多数収録し、リアルドライブを体験できるRCGシリーズ。1997年の第1作から大ヒットを記録し、いまや国内だけにとどまらず、北米、欧州を中心に海外からも絶大な人気を獲得。また、さまざまな派生タイトルもリリースされ、初代『GT』から『GT4"プロローグ"版』までの出荷本数は、全世界で3,600万本以上に達している。
 
●1997年12月23日発売/PS
『グランツーリスモ』
「自動車(クルマ)を愛するすべての人に…」のキャッチフレーズでリリースされた、記念すべきシリーズ第1弾。実車を再現したグラフィックと挙動、そして100車種146グレードという当時のRCGとしてはズバ抜けたスペックで、多くのクルマファンを魅了した。
 
●1999年12月11日発売/PS
『グランツーリスモ2』

 国産のニューモデル、軽自動車、海外メーカーの新旧車などを多数追加したシリーズ第2弾。そのボリュームは500車種600グレード以上と大幅にパワーアップ。グラフィックと挙動のさらなるリアリティを追求。さらに「仮免許モード」や「ドライビング教習モード」など、幅広いユーザーが楽しめるようゲームシステムも進化を果たした。
 
●2001年4月28日発売/PS2
『グランツーリスモ3 A-spec』

 発売からわずか2日で国内出荷本数100万本を突破した、シリーズ第3弾。ハードをPS2になったことで、グラフィックのリアリティは飛躍的に進化。国内外の自動車メーカーが誇る200車種を細部まで再現している。さらにフォースフィードバック対応ハンドルコントローラ「GT Force」も同時リリース。実車そのままの挙動を味わえた(本文中『GT3』)。
 
●2002年1月1日発売/PS2
『グランツーリスモ コンセプト 2001 TOKYO』

 2001年に開催された「東京モーターショー2001」に出展された国内自動車メーカーのコンセプトカーを収録。ニッサン・GT-Rコンセプトやホンダ・デュアルノートといった、通常では試乗できない夢のクルマを、PS2で手軽にドライブすることができた。
 
●2003年12月4日発売/PS2
『グランツーリスモ4"プロローグ"版』

 そのタイトルの通り、RCG初心者や『GT』シリーズ未経験のユーザーのための『GT4』入門用タイトル。スゴロクのようにわかりやすい形で進行する「ドライビングモード」では、急制動やパイロンスラロームなど、初心者にもスポーツ走行の基本を楽しみながら習得できるレッスンが多数用意されていた。また、富士スピードウェイ、筑波サーキットといった実在する国内サーキットの収録も話題を呼んだ(本文中『GT4P』)。

―注釈―

※1 A-spec

プレイヤーが自ら愛車を操作する、従来シリーズの遊び方で
プレイするモードのこと。

※2 『GT4P』で表示されていたポイント
『GT4P』では、達成率やトロフィーのほかに、スクールモー
ドのクリアタイムに応じて加算されるポイントがあった。

※3 Gメーター
横方向のGの強さをリアルタイムに表示するゲージ。

※4 ニュルブルクリンク
ドイツにある全長20.8km、コーナー数176、最大高低差300m
という世界屈指の超ハードコース。自動車メーカーの市販車テ
ストで使われる場所としても有名。正式名はニュルブルクリン
ク・ノルドシュライフェ。通称ニュル。

※5 インフィニオン・レースウェイ
カリフォルニア州のソノマにある全長2.8km、コーナー数10の
実在サーキット。「NASCAR」「CART」「IRL」といった、アメリ
カでおなじみのモータースポーツの舞台となっている。

※6 走行会
実際では、サーキットを借りきって自由に走行するイベントを
走行会と呼ぶ。自由にピットインやピットアウトして、いろい
ろな車種と混走する場合が多い。ゲームでも、ほかのクルマが
走行中のところで走る仕様になりそうだ。

※7 D1
正式名は「全日本プロドリフト選手権」。コーナーへの進入角
度やドリフト中のスピードなど、ドリフトの華麗さを競う競技。
『GT4』では、このD1に参戦しているブリッツのR34スカイラ
インやHKSのS15シルビアが収録されている。