美少女ゲームの音楽事情:第1回
ゲームプロデューサー 金杉はじめ
担当:電撃オンライン モンキー
仕事柄、美少女ゲームの業界に触れることが多い私ですが、そんな日々の中でふと気付くことがあります。美少女ゲーム関連の音楽事情が熱い。民族音楽を採り入れてみたり、一般の流通には載せられないほど歌詞が過激なものもあったり、ゲーム1本まるごとで組曲を展開してみたり。あげく、会社に専用スタジオを作ってしまうメーカーがあったり。しかも、力を入れているにも関わらず、いわゆるメジャーなジャンルよりも作り手の自由になる部分が多い気がするんです。そもそも「ゲームの主題歌」は、ゲームそのものの付加価値的な扱いだったから、あまり売上を気にしなくていいのかもしれません。最近は美少女ゲームの音楽を専門に手がける集団なんかも出てきたりして、なんだかスッゲー盛り上がってきているような。いや、私がそう感じているだけかもしれませんが。でも、盛り上がっているところへ顔を突っ込みたくなるのは媒体関係者のサガ。目ざましい活躍を見せる人に、話を聞いてみたくなるのもサガ。というわけで、まずは美少女ゲームの黎明期からプロデュースを手がけ、現在も活躍を続ける金杉はじめ氏(F&Cプロデューサー・※1)にお話をうかがってみました。盛り上がってきた美少女ゲームの音楽事情は、これからどうなっていくのか? そんなテーマでインタビューを進めていこうと思います。これからこの業界でメシを食おうと思っている人に、もしかしたら役立つかもしれない。さっぱり役立たないかもしれない。ご用とお急ぎでない方は、お付き合いください。
●「祭りにしようか」で『Piaキャロ3』と『大悪司』がカチ合った!?
業界の仕掛人、金杉はじめという人物
『Piaキャロットへようこそ!』というシリーズがあります。美少女ゲームの大手メーカー・F&Cの人気シリーズで、これまでに3作が発表され、どれも好調なセールスを記録してきました。その最新作である『3』が発売されたのは、2001年の11月30日。でも、もともとは翌12月に発売されるスケジュールで制作が進行していたそうです。この2001年の年末は、他にも『大悪司』(こちらも大手のメーカー・アリスソフトが放つ大作)の発売が11月30日に控えていました。超大作が集中する年末に、ファンのみならず業界全体が注目していたのです。――そんな時のこと。数々のソフトを手がけてきた金杉はじめ氏は、発売スケジュールを顧みてこう言ったそうです。
「祭りにしようか」
ちょうど、『Piaキャロ3』の開発は予定よりも順調に進んでいたとか。そして金杉氏の発言通り、2つの大作は11月30日に発売されることとなりました。この日の秋葉原は、午前0時に店を開けるショップはあるわ、そこへ徹夜したファンが押し寄せるわで、そりゃーもう大変な盛り上がりでした(※2)。そんな逸話が印象的な金杉氏ですが、もう1つ「音楽プロデューサー」という顔も持っています。F&Cのゲーム主題歌やBGMでおなじみの音楽制作集団「DOORS」を主宰し、CDのリリースやライブを活発に行ってきました。業界黎明期から美少女ゲームに携わっている金杉氏ですが、なんと元はDJだったとか。どんなきっかけで、美少女ゲームを手がけるようになったのでしょう。
●元はDJ!? 珍しい経歴の敏腕プロデューサー
金杉氏
「1980年代の後半ごろのことですが……桑原茂一さん(「スネークマンショー」プロデューサー)たちと、クラブをプロデュースする仕事みたいなことをしていた頃がありまして。クラブを作るかたわら、DJも務める、みたいな役どころですね」
まずは、音楽に携わることでスタートラインを切った金杉氏。まるで美少女ゲームに関係なさそうな気もしますが、いったいどうして「コッチの世界」へ身を投じたのでしょう。
金杉氏
「映画が好きなので、映画の世界へ行こうかな……とも考えたんですが。映画は40代とか50代でも、なんとかならないこともない。それにゲームの方が、隙が多いというか、やりたいことをやらせてもらえそうな気がして。まだ使われていない手法とか、表現とかですね。それで、ゲームの世界を選んだんです。『ドラクエ』とか『いたスト』とか好きで、よく遊んでいたので、求人を見て入社したんですが……まさかエロゲーの会社だったとは(笑)。入ってから一週間くらいして気付きましたよ」
こうして美少女ゲーム業界へと身を投じた金杉氏は、かの田所広成氏(※3)と組んで『校内写生』をリリース。その後、過激専門レーベル「RED-ZONE」を設立し、『亜紀子』などの話題作を手がけました。さらに、CD-DAをふんだんに使う本格AVGレーベル「HARD-COVER」を設立。『ネクロノミコン』など話題作を続々と制作していきます。エンディングにジャズのボーカリストを起用し、スタジオの一発録りを行ったりと枠にとらわれない活動を続けました。
●転機となった音楽制作集団「DOORS」の設立
ゲーム制作に、音楽制作に。精力的な活動を続ける中で、『バーチャコール2』が登場します。
金杉氏
「その『バーチャコール2』のために、「PAYAPAYA2001」というものすごくバカな曲を作りまして(一同爆笑)。このとき、ゲームに同梱したCDがDOORS(※5)としての最初の活動です。その後、『Piaキャロットへようこそ!!2』、『ロマンスは剣の輝きII』などをプロデュースし、音楽とセットで制作を手がけてきました。コンシューマへの移植などをへて、ゲームのタイトル1本でライブをやって数千人を集める……ということが実現できるようになってきたのもこの頃です」
DOORSは作詞とプロデュースを担当する金杉氏を中心として、実力派の作曲家による楽曲を次々に発表。主なF&C作品の主題歌やエンディングテーマは、ほとんどがDOORSによるものです。くにたけみゆきさんやロビンさんといったボーカリストによる人気にも後押しされ、CDも好調なセールスを記録しました。でも、金杉氏自身はまったく作曲をすることがないとか。
金杉氏
「作曲やプログラムは、もっと上手な人がいっぱいいますから。僕が担当するのは、文章(歌詞)と言葉で伝えられること(プロデュース)ですね」
そんな金杉氏ですが、先日「HONEY BEE」という新バンドを結成。このバンドは、『魔女のお茶会』(フロントウイング)などの楽曲で知られる人気ボーカリストのYURIAさんを迎えたもの。どんな思惑があって、バンドを結成したのでしょう。
●同じ空気を吸って、同じ曲で盛り上がろう! 一体感を目指し、新バンド「HONEY BEE」誕生
金杉氏
「最近は、フロントウイングさんやGROOVERさんのように歌へ注力するメーカーさんも増えました。また佐藤裕美さんをはじめとする「ボーカリスト」と呼べる人たちが、美少女ゲームの業界で活躍するようになってきましたよね。コミケやキャラフェス(※4)でもライブが行われるようになったことで、「ゲームは知らないけど、曲が良さそうだからゲームも買ってみようかな」っていうお客さんも増えてきた。でも、せっかくのライブなのにバックで鳴っている曲がカラオケだったりすることも多い。それなら、しっかりライブのできるバンドを結成して、せっかく活気づいてきた美少女ゲームの音楽シーンに根づくものを提供していきたいかな……と思うようになったんです。やっぱり、イベントってすごく大事なので。いつもはおウチにこもってゲームをやっている……というのももちろんいいけど(一同笑)、たまにはイベントに来て、一緒に盛り上がろうよ! というのを目指してバンドを結成しました。同じ空気を吸って、同じ曲で盛り上がろう! っていう一体感ですね。ボーカリスト1人のパフォーマンスと、ボーカリストを「含む」バンドのパフォーマンスでは、ライブにおける威力が全然違いますしね」
HONEY BEEは美少女ゲームだけでなく、アニメもコンシューマも大歓迎とか。制作スタイルは従来のものと違い、「完成形」を提供するとのこと。
金杉氏
「先に曲を作って、提供していくというスタイルになると思います。普通はメーカーさんなどの制作側から、ある程度要望があるものなんですね。で、それに対して詞をお見せするとか、MIDIでメロディラインをお聴かせするとかして、段階を追って進めていく。でもHONEY BEEは、いきなりドンと見せて終わり。それだけ、きれいにまとまった楽曲を提供できると思っています」
●萌えまくる昨今の業界とその状況、そして音楽にできること
活発な活動を続ける金杉氏ですが、美少女ゲームという業界の「現在」を、どのように見ているのでしょう。
金杉氏
「ここしばらく……業界全体に、嫌なマッタリ感をともなった閉塞のイメージがありました。それに加えて、去年の年末くらいから、さらにしぼんでいくんじゃないか、という空気が(関係者の間で)立ち込めているんですね。そんな閉塞感を打破していくという意味で、音楽はものすごく力があると思うんです。ゲームを作る上で重要なことは、新しいイメージを打ち出すことなんですが、ビジュアルとともに活躍するのが音楽。ここ最近、ある1つのゲームがヒットしたからと、同じようなキャラクターの同じようなゲームを出す風潮が強くなってきています。それ自体は悪いことじゃないんですが、そればかりになってしまうと後がない。もちろん美少女ゲームなのでキャラクターに特化することも重要ですが、それじゃ消費して終わってしまいますよね。萌えなら萌えだけ、萌え萌え言っていて、じゃあその「萌え」というキーワードが機能しなくなったときに、みんな一体どうするの? という。どこかで、新しいイメージを打ち出す必要がある。コラボレーションという単語がはやっていますけど、原画家さんでコラボレーションして行くのは少々難しい。メーカーのカラーに染まりやすいですからね。でも音楽なら、メーカーとメーカーの垣根を越えてうまく機能すると思うんです」
●業界全体を巻き込む旋風!! 10社以上の参加を睨んだコラボレーション・ライブ
メーカーの垣根を越えて進めていく、コラボレーション。その1つの形として、“メーカーの枠にとらわれないライブの形がある”――以前そんな話を、金杉氏から軽く聞いたことがありました。せっかくの機会なので、単刀直入に聞いてみます。豪華極まりないこのライブ計画、実現の可能性は……!?
金杉氏
「夏くらいに、でっかいライブをやりたいなと思っています」
いきなり具体的な時期が提示されました!!
金杉氏
「すでに10社以上のメーカーさんへ、協力をお願いしています。返事も好感触ですよ。ただ、メーカーさんでくくるよりも、「音楽集団」でくくった方がライブはやりやすいですよね。同じメーカーで、タイトルごとに別の音楽集団が制作を担当することもありますし」
金杉氏率いるDOORS、HONEY BEEをはじめ、このところ美少女ゲーム業界で音楽を専門に制作する集団が増えてきている。feel、Energy field、UNDER17、そして老舗のI've……。メーカーの枠ではなく、音楽集団としてなら、ライブもやりやすいという。
金杉氏
「音楽集団でくくれば、演奏曲がある程度偏っていてもあまり気になりませんし。メーカーさんには、バックアップをお願いした方が円滑かもしれませんね。楽曲使用の許可ですとか、物販ブースですとか(笑)」
●そして、これからのこと
今年も大忙しになりそうな金杉氏。今後の予定はいかがなものだろう。
金杉氏
「美少女ゲームの新ブランドで、「Black Berries」がスタートするのですが、その第1弾として『はじめてがいっぱい 〜メイドっ娘αβ〜』というソフトがまもなく登場します。主題歌の作詞を僕がやって、ヴォーカリストにはCVも担当した蓮香さんにお願いしています。ちなみに主題歌のタイトルは「はじめてがいぱ〜い」。某巨大掲示板の用語をいかに詞へ取り込んでいくかが自分の中のテーマですね! ……いや、けっこう真面目に考えてますよ?(笑)」
では、いま現在の仕事以外で、やってみたいことは?
金杉氏
「映画ですねー。それも超アナログなサイバーパンク。メカがさっぱり出てこないような」
マ、マニアックな……。ええと、では一週間休みをもらったら何をしますか?
金杉氏
「旅行……でしょうか。2〜3日なら温泉、一週間ならどこかの島。ええ、島、好きなので」
余談ですが、この業界の人達は、休みをもらえたら旅行へ!と答える方が多いような気がします。それだけ、激務に追われているのでしょうか。金杉氏にも、体を壊さない程度に頑張っていただきたいもの。そして、ぜひ業界全体を席巻する超巨大ライブを実現させてほしい! きっと閉塞しつつある美少女ゲーム業界に、音楽でもって旋風を巻き起こしてくれるに違いない。
・ ・ ・ ・ ・
今回は第1回ということで、金杉はじめ氏にお話をうかがいました。今後も、「美少女ゲーム」と「音楽」をキーワードに、様々な方からお話をうかがおうと思っています。読者の皆さんで、「あの人に話を聞いてほしい!」「この質問を、アイツにぶつけてこい!」なんて要望がありましたら、
g-net@mediaworks.co.jp
までメールをください。実現できないかもしれないけど、実現できるかもしれません。
【金杉はじめ】
ゲームプロデューサー/音楽プロデューサー。F&Cの企画局局長を務めるかたわら、Lotusをはじめとする多くのブランドを動かす。先日も、5,000円という中価格帯でソフトを発売するMid Priceを提唱。その第1弾となる『はじめてがいっぱい 〜メイドっ娘αβ〜』(4月25日発売)に向けて全力投球中。Mid Priceの記者会見時の様子は、記事の末尾にある関連記事からどうぞ。
(C)2003 Black Berries
『はじめてがいっぱい 〜メイドっ娘αβ〜』
■メーカー:Black Berries
■対応機種:PC(対応OS:Windows98/ME/2000/XP)
■ジャンル:AVG
■発売日:4月25日(金)
■価格:5,000円(税別)
★用語解説
※1【F&C】
美少女ゲームの大手メーカー。『Piaキャロット』シリーズをはじめ、数々の人気タイトルをリリース。ライトなテイストの恋愛ゲームが多いが、『水月』といったシリアスタッチなAVGでも好評を博している。
※2【2001年11月30日】
F&C・FC02の『Piaキャロットへようこそ!!3』と、アリスソフトの『大悪司』の発売日が重なった、いわば天王山。秋葉原はすさまじい活気に包まれた。詳しくは記事の末尾にある関連記事からどうぞ。
※3【田所広成】
『学園ソドム』等を代表作とする、業界屈指の仕掛け人。インディーズでソフトを発表したりとアグレッシブな活動を続ける。現アナログファクトリー代表。
※4【コミケやキャラフェス】
……美少女ゲーム好きのファンが多数集まるイベント。それぞれ、正式名称を「コミックマーケット」、「キャラクターフェスティバル」という。コミケは同人誌即売会なので「ファンの集い」といった趣だが、キャラフェスは企業主催のイベントなので商業色が強い。
※5【DOORS】
正式名称「DOORS MUSIC ENTERTAINMENT」。金杉氏を代表として、作詞作曲のBun Yoshida氏、アレンジャーのYoshito Hata氏を中心とした音楽制作集団。現在は、F&Cをはじめとする美少女ゲームの音楽からコンシューマゲームの音楽まで幅広く手がけている。
■関連サイト
F&C
Black Berries(『はじめてがいっぱい 〜メイドっ娘αβ〜』)
DOORS MUSIC ENTERTAINMENT
Lotus(『空色の風琴』)
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このコーナーは電撃オンラインのスタッフが、毎日の更新の際に感じたことや体験したことをつれづれなるままに書いていく、編集後記とコラムを融合させたコーナーです。