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2003年11月6日(木)

【TIGRAF】『クロックタワー3』では映画のノウハウを採用。元UGAの水口氏も登壇

 さまざまなゲームメーカーのクリエイターが、CG制作のノウハウなどを語る「TIGRAF」の「GAME SPECIAL」。続いてはプレゼンテーションの後半、「カプコンの世界」「水口哲也の世界」の内容をお届けしよう。

■「カプコンの世界」

 3番目のプレゼンテーションでは、カプコンで『biohazard 0』などを手がけた敏腕プロデューサー三並達也氏が出席。故深作欣二氏が監督した、『クロックタワー3』のメイキングや、ゲーム業界におけるプロデューサーの役割について説明が行われた。

 『クロックタワー3』のムービーに関しては、深作監督はCG技術に対する造詣は深くなかったものの、「動き」が重要であると考えて映像制作を実施。数百人単位でのオーディションを行い、深作組と呼ばれる同氏の映画製作チームによるモーションキャプチャーが行われたという。このモーションキャプチャーは非常に本格的なもので、東映のスタジオを使ってセットを設営し、極限までリアルな動きを収録することを目指した風景の映像がお披露目された。

 また、プロデューサーの役割については、現在は1タイトルにつき1人となっているが、もう1人か2人ほど増やしてはいいのではないかと思うとのこと。なぜなら、日本の場合プロデューサーは、会社(クライアント)からの資金調達、開発スタッフのとりまとめのほか、ゲームの開発も手がけるという、「経営」と「クリエイティブ」の双方を同時に行っており、肥大化するゲーム開発環境を管理できる限界にあるからだ。
 この点について三並氏は、「ハリウッドでは、プロデューサーはスタジオに対するプレゼンを行い資金調達をして、スタッフへの報酬と会社の収入を管理するという経営に集中している。作品自体の内容は監督(ディレクター)が管理するという合理的なスタイルを取っている」と米国の事例を紹介した。

■「水口哲也の世界」

 「ゲーム特集」プレゼンテーションのトリを飾るのは、ゲームプロデューサーの水口哲也氏。10月10日付けでセガを退社し、現在フリーとなった水口氏は冒頭で「本日は特に新しい映像を見せるという内容ではなく、自分がこれまでの集大成とそれを取巻く環境の変化などについて語りたい」と語り、プレゼンテーションに突入。アミューズメント施設用のシミュレーターCG、『セガラリー・チャンピオンシップ』、バイク体感マシン『マンクスTT』、『セガラリー2』といった業務用タイトルを映像とともに紹介し、「それまでAC用のゲームを手がけていたが、その時点で映像はきれいになっても遊びとしての質が変化していないと、エンターテイメントとして成り立たない。ゲームセンターでストーリー性のあるスリルを味わうことは難しいという、壁にぶち当たった」と家庭用ゲームの開発に移行した経緯を話す。

 続いて、『スペースチャンネル5』、『Rez』といった水口氏の代表作となる家庭用タイトルについて、制作や構想の課程をじっくりと解説。まず、主人公の女性リポーター“うらら”が得意のダンスで地球を救う『スペチャン』は、「“ハッピーにさせる”をキーワードに、女性をとりこむようなゲームを作りたい」ということから開発がスタート。そして、ドラム缶やタライなどを叩き、リズムのみを組み合わせるパフォーマンス「ストンプ」の公演を見て、「記憶力とリズム感しかない、このパフォーマンスを遊びにできないか」とゲームデザイン部分がひらめいたことも明らかに。この他、笑いのノウハウを得るために開発スタッフたちと半年間ワークショップを実施したり、“うらら”のキャラクター性を決定するために、当時あらゆる世代から人気があった女優・藤原紀香さんの魅力を紐解いてみたりといったエピソードを、開発時を振り返って披露してくれた。
 また、“ゲームでどれだけ気持ちよくさせられるか”をテーマに、快感を追求した新感覚のシューティングゲーム『Rez』については、“気持ちがいい”ということを分解する点で非常に苦労したとコメント。最後に「ゲーム業界が大きな市場となっているが、ゲームにはリアリティが必要。そのリアリティとは美しい画像ではなく、ユーザーが感情移入できるという意味のもので、クリエイターは人間が持つ本能や欲求を見抜く力が必要」と語り、来場者やゲーム業界を目指す人に向けて「刺激を与え、ユーザーの欲求を満たせるような作品を作ってほしい。エンターテイメント産業を目指している人はいっしょに頑張りましょう」とメッセージを送った。

 なお、プレゼンテーション後に行われた記者会見で、今後の活動について聞かれた水口氏は「他メーカーの社員になるつもりはなく、クリエーター、プロデューサーなどいろいろな立場でやっていきたい」と意気込みを語ってくれた。さらに、「海外などでもゲームは売れている。日本では携帯電話などに押されぎみだが、ダメになっているとは思っていない。新しいプロジェクトは現時点で発表できるものはないが、インパクトのある作品を手がけたい」とのこと。常に新しい作品に取り組む水口氏の活躍に期待したいところだ。

主に『クロックタワー3』の映像表現について語った三並氏。映画業界とのコラボレーションによって、多くのノウハウを獲得できたという。

故深作欣二監督が監修した映像は、東映のスタジオを使った本格的なものだ。

現在フリーのゲームプロデューサーとして活動を行っている水口氏が「TIGRAF ゲーム特集」に参加。ゲームメーカーとしてではなく、個人でプレゼンテーションを行うのは、本イベントでは水口氏が初めてとのことだ。

女性にも受け入れられるよう、カジュアルなゲームとして開発された『スペースチャンネル5』。会場では、本作の原点となったデモムービーも公開された。

『スペチャン5』の開発ではスタッフに笑いのノウハウを理解させるために、集団で同じ動作を繰り返すといったワークショップを実施。

“うらら”が出演したMTVのCM映像。水口氏は、「さまざまなメディアで活躍できるキャラクターを作るためには、かなりの洞察力が必要」と語る。

“快感”を追求し、何もないところから音と映像を作り上げていく『Rez』。新感覚STGとして数々の賞を受賞した。


■関連サイト
カプコン
東京CG映像祭(TIGRAF)